医学の進歩によって病気の克服は可能でも、生命の限界をなくすことはしょせん不可能なのです。そして真の科学的な姿勢とは、よく分からない部分、不確かなところを切り捨てて、明晰な、取り組みやすい情報だけをよせ集め、任意の全体像を強引にまとめ上げることではないはずです。ここで古くからの生物・生命に関する機械論、生気論、全体論の論争に深入りするつもりはありませんが、現代医学が直接コントロールできない部分が少なからず存在すること、そして実際の診療の現場ではそれがしばしばきわめて重大な意味をもつものであることは、医療者は誰しも体験的に理解しているところであろうと思います。かつてオスラーは「医学は不確実性の科学であり、確率の技術である」といいましたが、今日でも根本的な状況は変わっていないのです。それなら患者は医者に何を期待すべきであり、何を期待すべきでないのでしょうか。どのようにヽ医者とつき合うべきでありましょうか。医者というものは、決して不可能を可能にすることのできる魔術師ないし万能者ではないが、患者が一人歩きしたり、家族・友人など素人に手を引っぱられて歩くよりは、この専門家に導かれる方が、相対的な意味でははるかに安全であるような、そういう存在であると考えるべきであろうと私は思うのです。