一つは摂食障害、いま一つはエステ・カルトだ。両者をつなぐ心理的横糸はアディクション(嗜癖)である。摂食障害はわが国では一五年ほど前から精神科外来に急増してきた病態で、ほとんどが若い女性を襲う深刻な心の病気である。欧米では一九世紀末からその存在が知られていて、富裕階級の令嬢が身体的な原因は無いのに、食事を摂らなくなり、カリガリに痩せて、無月経、老婆のような皮膚乾燥、脱毛、骨粗粗症、そしてやがて死へと向かう不思議な病気だった。身長が一六五センチで体重が二九キロしかなくても、まだ太っていると知覚する自己身体像の著しい歪みがあって、これは揺るぎない信念として患者をとらえる。神経性食欲不振症と学名がつけられた。成熟への拒否という心理的な説明がなされた。しかし学説と実状はしばしば乖離している。彼女たちは、本当は食欲がないわけではなかった。むしろ旺盛な食物への関心に支配されていた。だから家人が寝静まった深夜に盗み食いをし、トイレで吐くというパターンが多かった。これを続けると血液中のカリウムが低下し心臓が突然停止する。身体が痩せるだけでなく、脳も萎縮して判断能力を失うが「痩せなければ」という指令だけがまるで暴走するコンピューターの最終コマンドのように生き続けるのだ。
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