Mがやってきた日

2011.04.26

Mが乳児院へやってきたのは、八月最後の週末のむし暑い夜だった。へその緒のようすから見て、生後五日目と推定された。体重は二六〇〇グラムで、見るからに小さかった。だが泣き声はとても大きく、一度機嫌をそこねると、火のついたように激しく、かん高い声を上げて泣き出した。ゆでダコのように真っ赤な顔になり、みるみるうちに頭から汗が吹き出す。そんな元気のよさからして、たくましい生命力を感じさせた。A区の歓楽街のど真ん中にあるコイビフンドリーのテーブルの上に、Mはガーゼのタオルにくるまれて捨てられていた。そばには、手さげの紙袋かおり、中に哺乳ぴんと薬袋、オムツが一組にバスタオル、ミルクの缶が入っていただけである。発見者であるコインランドリーのおばさんと警察の人に連れられ、Mが乳児院へやってきたのは、夜中の二一時をまわったころ。その日たまたま夜勤だった私は、警察からの電話を受けたあと、すぐに受け入れの準備をして待っていた。発見されたときのようすを聞きながら、私はおばさんの手からMを受けとった。すぐに風呂に入れ体重測定をし、温かいミルクをあげると、Mはおなかがすいていたのか、哺乳びんにむしやぶりつくようにして、一気にミルクを飲みほしてしまった。そしてスヤスヤと眠り始めた。入浴時の火のついたような泣き声がうそのようだ。さきほどまで抱かれていた母の温もりを手繰りながらまどろんでいるのだろうか、穏やかな寝顔をしていた。その夜、水玉模様のワンピースを着た女の人が、公園でおくるみに包まれた赤ん坊にミルクを飲ませていたという情報だけが、その後の警察の聞き込み捜査でわかった。だが依然として母親の行方はわからなかった。自分にも二歳になる娘がいるというお巡りさんは、「早くお母さん見つけてやっからな。元気でいるんだよ」と言い残して立ち去っていった。
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